事業承継の後継者問題について知っていますか?メリットやデメリットとともに

少子化によって確かに後継者問題が深刻化しているのは事実ですが、多くの中小企業経営者はどのような考えや施策を行っているのでしょうか。今回はその点を解明すべく、複数のデータから検証を行っています。
また、たとえ後継者が不足している状態でも、事業承継には様々な選択肢があります。後継者がいないからといって即座に廃業の道を選ばず、今回お伝えする別の方法もお試しください。
データで見る事業承継の後継者問題
事業承継において後継者問題が顕在化していることは疑いようがありません。特に中小企業を中心に、後継者が見つからずに廃業の道を選ぶ経営者も少なくないようです。
しかし、あくまでそれは全体を俯瞰して見たときの一つのイメージでもあります。
後継者問題がメディアで大々的に報じられるようになった昨今では、事業承継の様々な選択肢を駆使して解決策を探ろうとするケースも増えています。
ここでは、客観的なデータを参考に、リアルな後継者問題の裏側を覗いていきましょう。
後継者候補がすでに決まっている中小企業は44%
経済産業省のレポート「少子高齢化・人口減少社会における中小企業」によると、「自分の代で廃業したい」と望む中小企業経営者は4.9%にしか過ぎず、残りの95.1%の人が「何らかの形で事業を引き継ぎたい」と考えています。また、後継者候補がすでに決定している中小企業は44.0%で、「決めてはいないが候補者はいる」という回答が37.1%に上ります。両者を合わせて81.1%の中小企業は後継者候補を見つけている状態だということが分かります。
世間では中小企業の後継者問題が声高に叫ばれているなか、意外にも後継者候補を見つけている企業が多いというイメージを持った方も多いのではないでしょうか。
では、次はもう少し細分化したデータを見ていきましょう。
企業規模別の後継者不在率
帝国データバンクで調査データを参考にすると、調査対象企業の「後継者不在率」が分かります。後継者不在率が高いほど後継者問題に悩まされているといっても過言ではありません。
ではまず、企業規模ごとの後継者不在率を見ていきましょう。
※数値は%単位
従業員数 |
後継者不在率 |
売上高 |
後継者不在率 |
資本金 |
後継者不在率 |
~5人 |
73.7 |
~5,000万円 |
80.3 |
~1,000万円 |
75.5 |
6~20人 |
67.1 |
5,000万~1億円 |
74.8 |
1,000万~3,000万円 |
65.0 |
21~50人 |
61.4 |
1~10億円 |
67.8 |
3,000万~5,000万円 |
62.5 |
51~100人 |
57.5 |
10~50億円 |
58.2 |
5,000万~1億円 |
58.1 |
100人~ |
47.7 |
50~100億円 |
49.6 |
1億円~ |
47.1 |
- |
- |
100~1,000億円 |
39.8 |
- |
- |
- |
- |
1,000億円~ |
24.5 |
- |
- |
産業別の後継者不在率
次に、産業別の後継者不在率を見ていきましょう。※数値は%単位
業種 |
後継者不在率 |
||
2017年 |
2018年 |
2019年 |
|
建設業 |
71.2 |
71.4 |
70.6 |
製造業 |
59.0 |
59.0 |
57.9 |
卸売業 |
64.9 |
64.7 |
63.3 |
小売業 |
67.4 |
67.3 |
66.0 |
運輸・通信業 |
64.0 |
63.7 |
62.3 |
サービス業 |
71.8 |
71.6 |
70.2 |
不動産業 |
69.0 |
68.9 |
68.0 |
その他 |
55.4 |
56.1 |
54.0 |
さらに、2017年から2019年にかけて、後継者不在率が年々減少傾向にあることも見てとれるでしょう。
経営者の年齢別の後継者不在率
最後に、経営者の年齢ごとの後継者不在率を見ていきましょう。※数値は%単位
年代 |
後継者不在率 |
||
2017年 |
2018年 |
2019年 |
|
30代未満 |
92.1 |
94.1 |
91.9 |
30代 |
92.4 |
92.7 |
91.2 |
40代 |
88.1 |
88.2 |
85.8 |
50代 |
74.8 |
74.8 |
71.6 |
60代 |
53.1 |
52.3 |
49.5 |
70代 |
42.3 |
42.0 |
39.9 |
80代以上 |
34.2 |
33.2 |
31.8 |
全国平均推移 |
66.5 |
66.4 |
65.2 |
一方、経営者が年齢を重ねてくると、急激に後継者不在率が下がります。経営者の年齢が高くなるほど後継者問題の危機意識が強まり、何かしらの手段を講じることが多くなることが理由の一つです。2019年は初めて60代の後継者不在率が50%を下回るなど、高齢者を中心に後継者問題が改善されつつあることが分かります。
事業承継の後継者問題を理由に廃業した事例

少子化が進む日本では、事業承継に関する何らかの対応策を練っておかなければ、最悪の場合は廃業の道を選ばざるを得なくなるでしょう。
ここでは、事業承継の後継者問題を理由に廃業した事例を2つ紹介します。参考までにご覧ください。
後継者不足と経営者の体調悪化により廃業を決断
創業から50年を迎える老舗企業のA社。業界でも名門企業として多くのユーザーに親しまれてきた同社ですが、経営者には後継者がいませんでした。子供はすべて女性が占め、従業員や役員にも経営者に相応しい人物がいないと判断し、当初はM&Aによる事業売却を検討していました。
しかし、経営者の体調が急に悪化し、経営を続けていくのが困難な状態に陥ります。
数社の買い手候補は見つかっていたものの、体調悪化を理由に事業承継を断念。もともと後継者不足に悩まされていたA社だっただけに、社内を取りまとめる人材も見当たらず、組織が混乱する前に廃業することを選んでいます。
M&Aを検討するも条件が折り合わず廃業に至る
B社の経営者も子供がおらず、後継者問題によって事業承継を諦める道を選びます。小さい町工場で製造業を営んでいたB社では、経営者自身も現場に赴き、機械操作や出荷などの作業を担っていました。しかし、経営者が60歳を過ぎるころに体力の衰えを感じ、これ以上現場で働くことに無理があることに気付きます。
ただ、従業員数の少ないB社では、一人分の作業の穴を埋めることは簡単ではありません。
限界を悟ったB社の経営者は廃業を検討しますが、その前にM&Aによって事業承継できないかという考えに至ります。同業他社の買い手候補は見つかったものの、品質や製造プロセスの考え方で折り合いがつかず破談に。最終的には廃業の道を選んでいます。
後継者に引き継ぐ以外にも選択肢が!事業承継3つの方法

事業承継には、後継者に事業を引き継ぐ以外にも様々な選択肢があります。ここでは、後継者への事業承継以外の選択肢を3つ紹介していきます。
M&A
M&Aとは、他企業に事業を売却することで承継する方法です。今では数多くのM&A仲介会社やサービスが誕生し、初めての方でも専門家からアドバイスを得られたり、売却先との交渉を担当してくれます。
後継者は売却先の経営者が担うことが多いため、経営能力に一定の信頼が置ける点がメリットです。
また、後継者への承継に比べて育成期間を短縮できるため、短期間で手続きができる点も見逃せません。ただし、理想的な後継候補を探すことが難しいというデメリットもあります。
上場
上場をすると経営者自身の個人保証や個人資産の担保提供が不要となり、社外から優秀な後継者候補を探しやすくなります。そのため、将来の事業承継を見据えて上場しておくと、その後の手続きがスムーズに運びやすいと言えるでしょう。
同時に上場によって社会的ステータスも高まるため、事業承継以外にもメリットはたくさんあります。しかし、上場するための条件が難しい点がネックポイントになります。
廃業
事業承継がどうしても難しいという場合は、廃業の道を選ぶのも選択肢の一つです。廃業と言えばマイナスなイメージが強いものの、メリットもあります。
たとえば、後継者探しをする必要もなければ、複雑な条件を付けて買い手企業を探す手間も要りません。
M&Aも必ず成功するわけではないので、他企業との折衝により従業員を余計に混乱させることも無くなるでしょう。
ただし、廃業すると資産や負債はすべて清算されるため、事業が形として残らない点には注意してください。
まとめ
事業承継の後継者問題をデータで検証することにより、その具体的な背景が浮かび上がってきました。後継者問題が顕在する中で中小企業経営者の意識改革が進み、今では何らかの対策を講じる企業も珍しくありません。事実、全体的な後継者不在率は減少傾向にあります。
後継者が不足している状態でも、M&Aや上場などの選択肢が存在します。すでに後継者問題に悩まされている経営者の方も、様々な選択肢にチャレンジし、事業承継の可能性を探ってみてください。