中小企業のM&A事例について詳しくご紹介します!
今回は、大手企業とパートナーになることで、成長型M&Aに見事成功した中小企業の事例をご紹介します。
事例① オフィスコム株式会社×プラス株式会社
2015年12月28日、プラス株式会社は、オフィスコム株式会社の全株式を取得して、子会社化しました。
なぜ両社はM&Aをするに至ったのか。
その経緯を、それぞれの会社が置かれていた状況をもとに説明していきます。
・オフィスコム株式会社について(強み、課題点)
・プラス株式会社について(強み、課題点)
・互いの不足を補える最高のパートナー
・M&A成功の要因は〇〇!?
・まとめ
オフィスコム株式会社について
オフィスコム株式会社は、高橋和也社長が2007年に創業した会社です。顧客第一主義を掲げたオフィスコムは創業以来順調に売り上げを伸ばしていきました。M&Aの最終契約をした2015年12月期には30億円の売上を達成しています。
・オフィスコム株式会社の強み
オフィスコムの強みの一つは、その商品の安さです。
安さの理由は、オフィス家具の企画から製造、販売まで手掛ける垂直統合型のバリューチェーンがあることです。
垂直統合型とは、製品の開発から生産、販売に至るまで上流から下流のプロセスを全て1社で統合したビジネスモデルのことです。そのため、低価格を実現しやすいのが大きな特長です。
例えば、有名な垂直統合モデルの会社を挙げると、ニトリやファーストリテイリングなどがあります。
また、オフィスコムの最大の特徴は、ネット上にしか店舗がないEC(電子商取引)での販売に特化していたということです。楽天やヤフーなどのモールに加え、自社サイトでの販売もしていました。
2007年当時、家具のインターネット販売はあったものの店舗販売のおまけのようなポジションで、まだまだ主流ではありませんでした。
しかし、それからiPhoneの普及やSNSの拡大などインターネットの発展に伴って、EC市場はみるみるうちに広がっていきました。
2000 年以降は、インターネットが普及したことにより、大小様々な事業者が市場に参加することで徐々に通信販売における BtoC-EC の比率が高まっていきました。
2014 年には、BtoCのEC市場規模は 1兆1,590億円と、対前年比で20.3%上昇しています。
経済産業省商務情報政策局情報経済『平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)』
オフィスコムは当時からEC限定だったので、力の入れ具合が他社と違いました。
特に、今ではECで必須のSEO対策にも早くから力を入れており、その結果、現在ではgoogleでオフィス家具と検索すると、オフィスコムがトップに出てくるようになっています。
このようにして、オフィスコムは安さとインターネットを武器に急成長していきました。
・オフィスコム株式会社の課題
オフィスコム株式会社の課題①:品質管理
オフィスコムは、垂直統合型のビジネスモデルをもっていますが、協力工場が海外にあったため、品質管理が困難という課題を抱えていました。
なかには、不良品や、配送の梱包が未熟で配送中に壊れたりすることも多かったようです。
オフィス用の家具は、家庭用の家具ほど、デザイン性は問われない代わりに、高い耐久性が求められます。もし仮に「オフィスコムの家具は壊れやすい」という評判が流れてしまえば一大事です。特に、オフィスコムはEC市場でのみ勝負していただけに、ネット上でそのような口コミが増えたら大変なことになります。
オフィスコム株式会社の課題②:物流
ECにおいて物流の課題はつきものです。
もしどんなに高品質・高性能な製品を作ったとしても、物流のレベルが低いとお客さんは満足してくれないので、物流面のサービスレベル向上も常に考えなくてはなりません。
EC事業者が抱える物流課題は、在庫管理、受注管理、商品管理、配送業者の値上げなど多岐にわたります。在庫管理、受注管理、商品管理に関する物流課題は、統合的なシステム環境の構築で解決できることが多いです。しかし、それを一から導入するのは、多大な時間と労力、費用がかかります。
また配送業者の値上げについては、物流業界全体の人員不足が原因とされています。
ECが発展する一方で、物流業界の人員はあまり増えていないため、年々人員不足は深刻化しています。
(参考)総務省:通信利用動向調査
また、物流業界では、たびたび大きな変化が起こります。
2008年には、大手運送会社である佐川急便が、家具業界に対して大きな荷物は配送しないという通告をしました。この出来事は、佐川ショックと言われており、物流業界に強い衝撃を与えました。
2017年には、最大手であるヤマトがアマゾンの実配送から撤退しました。
こうした運送業者の人員不足や、値上げに左右されないためには、独自の物流網の構築をする必要がありました。
しかし、その実現はなかなか簡単なことではありません。
なぜならオフィス家具業界の配送は、通常の配送とは異なるからです。
例えば、通常の配送に加え、届けた家具をその場で組み立てたり、段ボールなどの不要物を引きとる業務も発生します。
このようなサービスを全国一律で、提供できるようするためには、莫大な資金と人員確保が必要でした。そうした問題を解決するにはどうすればいいかと考えたときに、高橋社長の頭に浮かんだのがM&Aという選択肢でした。
大手企業とタッグを組むことで、品質面や物流面における課題を解決できると考えたのです。
プラス株式会社について
プラス株式会社は1948年創業の大手文具事務用品、オフィス家具メーカーです。
プラスという社名には、2つの会社が合併したという創業の経緯を表す「プラス」と、世の中にとって「プラス」になることをしていくという、2つの意味が込められています。
流通モデルの創造にも力をいれたプラス株式会社は、通販事業としてスタートさせたアスクルは現在上場を果たしています。
・プラス株式会社の強み
プラスの強みは、その品質の高さです。メイドインジャパンで品質を徹底的に管理するノウハウをもっていることがプラスの強みです。
また、プラスは、物流の関連会社プラスロジスティクスを傘下に追っているため、全国一律配送のネットワークと運営ノウハウがあります。
ECを行っている事業者にとって、プラスの持っている物流のノウハウは、まさに垂涎を禁じ得ない独自の強みだといえます。
・プラス株式会社の課題
そのような他社にない独自の強みを持つプラス株式会社でしたが、とある課題を抱えていました。その課題とは、「ネット通販事業を展開したものの、当初期待していたほどの成長ができていなかった」というものです。
プラス株式会社は、この課題を解決するための方法を模索する中で、ある選択肢にたどり着きました。それが、EC事業に強い会社とのM&Aです。
互いの不足を補える最高のパートナー
ここで、オフィス株式会社とプラス株式会社の課題点と強みをそれぞれ見比べてみましょう。
オフィスコムは品質向上と物流に課題を抱えていて、そのノウハウをプラスは持っています。
一方、プラスはEC事業の成長に課題を抱えていて、オフィスコムはEC運営のノウハウを持っています。
その他にも、オフィスコムは低価格帯の商品がメインで、プラスは高品質かつ高価格帯の商品がメインのため、ターゲット層が異なります。
そのため、互いにタッグを組むことで、今まで獲得できていなかった価格帯の顧客層を獲得できると考えたのです。
つまり両社は、互いの不足を補い合える最高の組み合わせだったということです。
M&A成功の要因は〇〇!?
オフィスコム株式会社とプラス株式会社のM&Aが上手くいった大きな要因は他にもあります。
それは、両社の経営理念や企業風土が一致していたということです。
中小企業基盤整備機構の『事業承継に係る親族外承継に関する研究(平成20年3月)~親族外承継と事業承継に係るM&Aの実態』では、M&Aが上手くいかなかった理由を、以下の通りにまとめています。
(引用元)中小企業基盤整備機構の『事業承継に係る親族外承継に関する研究(平成20年3月)~親族外承継と事業承継に係るM&Aの実態』
この調査結果を見ると、経営理念、企業風土の一致がM&Aにおいて、いかに大切かわかると思います。
もしそれらが一致していない場合、M&A成立後に社内で摩擦が起き、組織として機能しなくなる恐れがあるからです。
もしそうなれば会社の成長以前の問題になります。
そのため高橋社長は、経営理念も一致している会社をM&Aの一つの条件として、パートナー探しをしました。
ベースとなる理念が一致していれば、互いに刺激しあいながら、より良い経営につながるからです。
M&Aの成功
M&A後のオフィスコムは、大手と組んだことで、新たな検査機器などの投資にお金をかけることが出来るようになり、品質の向上を実現しました。
また、これまで4か所に分かれていた倉庫を、一か所に集約することが出来るようになり、
これまでの物流課題を解決する大規模な物流センターと物流ノウハウを手にすることが出来たのです。
その結果、オフィスコムの売上は約30億円(2015年12月期)から47億円(2016年12月期)と、前年比160%の急成長を遂げることが出来ました。
M&Aののちも、高橋社長が社長のまま、事業を続けていきました。
オフィスコムの高橋社長は、事業が波に乗ったのを見届けたのち。2017年に退職をし、その後、新たに会社を設立しました。
その開業資金は、M&Aで手に入れた売却益とのことです。
まとめ
今回ご紹介したのは、M&Aを通じて自社の課題を解決し、事業を成長させた企業の例でした。
M&Aは、成功すると双方に大きなメリットをもたらす経営戦略です。
しかし、国内M&Aの成功率は36%と、成功ばかりではないことも忘れてはなりません。(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社『M&A経験企業にみるM&A実態調査(2013年)』)
今回の例では、互いの不足を補い合う関係にあったこと、経営理念が一致していたことが成功につながったのではないかと考えられます。
自社だけでは解決が難しい事業の悩みがあるとき、M&Aという選択肢を一つ持っておくことで、解決につながるかもしれません。
(参考)竹内直樹、2017、『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』、プレジデント社